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同業者の集まりでの何気ない会話が、独占禁止法違反のリスクにつながることがあります。原材料費の高騰、人件費の上昇など、共通の課題を抱える同業者が集まり、情報を交換することは自然なことです。
「うちは中小企業だから関係ない」「業界の慣習だから問題ないはず」そう思っていても、公正取引委員会の調査対象は大企業に限りません。本記事では、同業者の集まりで「何が危険で、どこが線引きなのか」を弁護士の視点から解説します。

吉野モア法律事務所 代表
京都大学法科大学院卒業 大阪弁護士会所属。
2022年に吉野モア法律事務所を開所し、主に中小企業のコンプライアンス問題や外国人労働者等の労災・労務問題、事業リスク・事業開発に伴う法的アドバイス等を実施。
直近は「トラブルが起こる前に備える」企業法務を目指し、組織づくりや次世代経営者育成なども手掛けている。
「自社が参加している業界団体の活動が独禁法上問題ないか確認したい」「同業者の会合でのルール整備を相談したい」という方は、お気軽にご相談ください。
品質改善、情報交換、切磋琢磨を目的とした同業者の集まりは、法律が禁止するものではありません。こうした会合には意義があり、国も認めているものです。
問題になるのは、集まること自体ではなく、そこで交わされる会話の内容です。
たとえば、こんな会話をしたことはありませんか。
「最近、原材料が上がって困りますよね。価格の相談とかできてますか?」
一見、同業者同士の何気ない雑談のように聞こえます。しかし状況によっては、これが独占禁止法違反のリスクにつながることがあります。なぜそうなるのか、順を追って説明します。

独占禁止法は、1947年に制定された法律で、公正で自由な競争を守るために存在します。
目的をひとことで言えば、「各社が取引内容や金額を自由に決められる状態を守ること」です。難しい条文を覚える必要はありません。「これをやってしまったら、自由に商売できなくなる」という行為を禁じた法律だと理解しておけば、ほとんどの判断ができます。
同業者団体に関しては、独占禁止法8条で一定の行為が禁止されています。自由な競争を阻害するような行為がその対象です。
「独占禁止法違反なんて、大企業の話だろう」と思われがちですが、そうではありません。
実際にあった事例として、LPガス容器用バルブの製造販売事業者5社が販売価格を引き上げることで合意した結果、課徴金が7億964万円、1社あたり約1.6億円に上ったケースがありました※1。価格調整を「暗に約束しただけ」でこれだけの金額が現実になります。
また、公正取引委員会が公表した令和6年度のデータによると、排除措置命令は21件、対象事業者61社、課徴金総額37億円。公取委への申告件数は3,038件に上ります※1。公取委は「価格カルテル・入札談合・受注調整に厳正かつ積極的に対処する」との方針を明言しており、監視の目は厳しくなっています。
万が一、違反と認定された場合のリスクは主に5つです。

実務上、特に意識していただきたいのは次の3点です。
最も典型的な違反です。値上げ幅、単価、コスト構造など、価格に関わる情報の共有が入口になります。人件費が上がっているという話題から「じゃあ値上げしようか」という流れが自然と生まれやすいのが怖いところです。
「この地域はうちで、あちらは御社で」など、同業者間でエリアや顧客を割り振ることは、典型的なNGパターンです。
今後の方針、受注見込み、経営戦略など、各社の競争行動に影響する情報の共有はNGです。雑談から始まりやすいのが、このカテゴリの怖さです。
ここからは、公正取引委員会に実際に相談があった事例をもとに、何がOKで何がNGなのかを見ていきましょう。
ある県で、建設資材メーカー30社が加盟する団体がありました(県内メーカーの約80%が加入)。原油価格の高騰を受け、この団体が官公庁や取引先に対して「価格転嫁を求める提言を出したい」と考え、公取委に相談しました。

善意からの取り組みでしたが、公取委の回答はアウトでした。
理由は「価格是正を求める提言を団体として出すことで、各社の価格に関する共通の意思決定につながり得る」というものです。団体として提言を出すことで、参加企業がその金額以上に上げることを「暗黙の合意」と受け取られる可能性があるということです。
注意すべき表現と、問題になりにくい表現には違いがあります。直接的に「値上げを求める」表現はNGですが、「原材料費や物流費が上昇しているという一般的な事情を説明するにとどめる」表現は問題になりにくいとされています。ただし、この線引きは非常に微妙です。
(※参照:公取委相談事例「12 事業者団体による官公庁及び取引先事業者に対する要請文書の発出」)
ある業者団体がレジ袋の単価を「3円」とするガイドラインを設定したいと公取委に相談し、それが認められました。

公取委がOKとした理由は3つです。
ただし、この事例がOKだったからといって「うちも同じことをすればセーフ」とはなりません。許容される条件が極めて限定的であり、個別の事情によって判断が異なります。
(※参照:公取委相談事例「12 レジ袋の有料化に伴う事業者団体による単価統一等の取組」)
独占禁止法の観点から話してよい情報・NGな情報については、以下を参考にしてください。
話すとリスクがある情報
一般的に問題になりにくい情報
迷ったら、価格・顧客・条件・見通しの話には入らない。これが鉄則です。
実際に値上げしたかどうかは問われません。「そういう合意があったかどうか」が問題になります。
裁判所の判断として、会合の直後に複数社が同時に値上げした場合、「特別な事情がない限り合意があった」と認定される可能性があります。
ある実例では、会合に参加した社員が、AとBが価格について話し合うのを聞いていただけで、何も発言せずに席を立ちませんでした。後にその社員の会社も同時期に値上げをしたことで、公取委から注意を受けました。「約束していない」と主張しても、黙認したとみなされたのです。
この事例が示すのは、会話に参加しなくても聞いていた事実があれば、その場を離れない限りリスクを負う可能性があるということです。
会合や懇親会でこのような会話が出たとします。
このような場面における正解の行動は「乗らない・広げない・話題を変える・必要なら離れる」の4つです。

重要なのは、オフィシャルな場でない場も同じルールが適用されるという点です。懇親会、休憩中、打ち上げ——どの場面であっても、そこで交わされた会話は独禁法の判断対象になります。お酒の席だからといって例外にはなりません。
そしてこれは参加者側だけでなく、会の主催者側にも役割があります。
誓約書を設けている会合もありますが、これは法的に必須というよりも「会の趣旨とルールをお互いに確認するための意思表示」という位置づけです。参加者・主催者双方がルールを持ち、それを守り続けることが大切です。
ルールは、意識の高い人が守るものではなく、人が入れ替わっても組織として機能するものでなければなりません。「この会ではこういうことは話しません」「こういった話題が出たらこう対応します」を文字にしておくことで、新しく参加した方にも共通の認識が生まれます。
コンプライアンスの本質は、違反しないための知識を持ち、それを行動で積み重ねることで文化が生まれるところにあります。ぜひルールの明文化と共通認識の醸成を大切にしていただければと思います。
独占禁止法への対応や、業界団体・同業者会合でのルール整備についてお悩みの際は、吉野モア法律事務所までお気軽にご相談ください。
参考資料
※1: 公正取引委員会「令和6年度における独占禁止法違反事件の処理状況について」
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