外国人労働者の労災対応マニュアル|発生直後の初動から行政手続きまで弁護士が解説

工場で働く外国人女性スタッフ

日本国内の人手不足を背景に、製造業や建設業などの現場で外国人労働者の方々が活躍する姿が日常のものとなっています。しかし、現場作業が多い業種では、どれほど安全に配慮していても労災のリスクをゼロにすることはできません。

いざ自社の外国人スタッフがケガをしてしまったとき、「言葉が通じなくて状況が把握できない」「日本人と同じ手続きでいいのだろうか」「行政への届出を間違えたら処分を受けるのではないか」とパニックになってしまう経営者や総務担当者の方は少なくありません。当事務所にも、外国人雇用を行う企業様から「現場で事故が起きてしまったが、まず何から手をつければいいのか」という切実なご相談が数多く寄せられています。

この記事では、外国人労働者に労災が発生した際の具体的な初動対応から、行政への報告手続き、対応を誤った際のリスク、そして事後に見直すべき体制まで、弁護士の視点からわかりやすく解説します。

💡この記事でわかること

  • 外国人労働者に労災が起きた直後、現場と総務が取るべき「正しい初動対応」のステップ
  • 労働基準監督署など、行政機関へ提出が必要な書類の期限と具体的な進め方
  • 言葉の壁がある外国人労働者に対し、どこまで通訳や外国語対応を行うべきかの基準
  • 万が一、対応を遅らせたり「労災隠し」と判断されたりした場合に企業が負う重大なペナルティ
  • 労災発生を機に見直すべき、社内の雇用契約や安全教育のポイント

外国人労働者であっても、日本の労働法が全面的に適用されます。正しい知識を持って迅速に対応することは、被災した従業員を救うだけでなく、会社を法的なリスクから守ることにも繋がります。

※関連記事:外国人雇用の注意点10選|初めて採用する中小企業が知っておくべきこと

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労災が発生したら最初に何をすべきか?

現場で事故が発生した際、最も重要なのは「迅速な救命と治療」です。これは従業員の国籍を問いません。しかし、外国人労働者の場合は「言語」や「在留資格」という特有の要素が絡むため、初動での意識的な配慮が必要になります。

発生直後の初動対応

事故が発生した直後は、以下の4つのステップを迅速に行ってください。

  1. 人命救助と医療機関への搬送
    軽傷に見えても必ず病院を受診させてください。頭部の打撲など、後から症状が悪化するケースもあります。救急車を呼ぶべき事態であれば、躊躇なく119番通報をしてください。
  2. 正確な事実関係の把握と写真・映像の記録
    本人が日本語でうまく状況を説明できない可能性があるため、周囲にいた目撃者から「いつ、どこで、誰が、何をしていて、どうなったのか」を細かく聞き取り、メモに残します。また、事故が発生した現場の状況をスマートフォンなどで写真や動画に収めておいてください。
  3. 医療機関への不適切な説明の防止
    受付で「仕事中のケガであること(労災であること)」を明確に伝えてください。労災に健康保険は使えません。もし使ってしまうと、後に切り替えの手続きが発生し、非常に煩雑な事務作業が生じてしまいます。
  4. 家族・母国への連絡準備
    怪我の程度が重い場合は、日本国内の緊急連絡先だけでなく、本人の母国の家族へ連絡を取る準備を進めます。

日本人との対応で変わる点・変わらない点

基本原則として、「労災保険の適用」や「生命・安全を守る義務」は日本人と全く変わりません。外国人であっても、技能実習生であっても、在留資格の期限が切れているオーバーステイの状態であっても、日本国内で労働者として働いていた以上、労災保険は100%適用されます。

一方で、日本人への対応と明確に変わる点は以下の通りです。

  • 「痛みの程度」や「事故状況」の言葉による確認の難しさ
    日本語が未熟なスタッフの場合、本当は激痛が走っているのに、遠慮して「大丈夫です」と言ってしまうケースがあります。外見や動きに違和感があれば、本人の言葉を鵜呑みにせず病院へ連れて行くべきです。
  • 健康保険証の仕組みや労災制度への理解不足
    母国にこのような手厚い労災保険制度がない国もあり、「病院に行ったら高額な費用を請求されて、強制送還されるのではないか」と恐怖心から怪我を隠そうとする労働者もいます。「治療費は会社や国の制度でカバーされるから安心してください」と、本人が理解できる言葉や態度で伝えることが大切です。
工場で働く外国人労働者

行政への報告手続きとは?

労災が発生した場合、会社は労働基準監督署などの行政機関に対して、法的に定められた報告や申請を行う義務があります。これを怠ると、いわゆる「労災隠し」として厳しく処罰される可能性があります。

労働基準監督署への報告義務と期限

会社が必ず行わなければならない代表的な手続きは以下の2つです。

1. 労働者死傷病報告の提出

労働者が業務中や通勤中にケガをし、休業または死亡した場合に労基署へ提出する義務があります。提出期限は休業日数によって異なります。

  • 休業4日以上、または死亡の場合:事故発生後、「遅滞なく」提出(実務上は1週間〜2週間以内が目安)
  • 休業1日〜3日の場合:3ヶ月ごとにまとめて提出(1月〜3月分は4月末まで、4月〜6月分は7月末まで)

この書類には、事故の具体的な原因や発生状況を記載する欄があります。第2章で記録した写真や聞き取りメモをもとに、正確な事実を記載してください。外国人労働者の氏名は、在留カードに記載されているアルファベットや漢字の表記通りに正しく記載する必要があります。

2. 労災保険給付の請求(療養補償給付・休業補償給付など)

被災した労働者が治療費の免除を受けたり、休業中の賃金補償を受けたりするための手続きです。

  • 療養補償給付:労災指定病院を受診した場合、この書類を病院の窓口に提出すれば、窓口での治療費自己負担が「0円」になります。
  • 休業補償給付:労災による怪我で働けず、賃金が支払われない期間(4日目以降)について、国から給付金を受け取るための請求書です。会社の証明欄があるため、会社側で作成をサポートするのが通常です。

外国語対応・通訳はどこまで必要か?

結論から申し上げますと、労基署に提出する申請書や報告書はすべて「日本語」で作成・提出しなければなりません。

しかし、労災保険の請求書には、被災した本人の署名や捺印、あるいは事故状況に関する本人の申し立て内容を記載する部分があります。本人が内容を理解していない状態でサインをさせることは、後々のトラブルを招くため絶対に避けてください。

実務上の対応としては、以下の方法を推奨します。

  • 厚生労働省の多言語テンプレートの活用
    厚生労働省のウェブサイトでは、労災保険制度の説明や給付の請求書などの主要な様式について、英語、中国語、ベトナム語、タガログ語、インドネシア語など、様々な言語に翻訳されたパンフレットが公開されています※1。これらを本人の前に提示し、「今からこの日本語の書類を出すけれど、内容はここに書かれている翻訳と同じ意味だよ」と説明しながら署名を求めるとスムーズです。
  • 外部通訳の確保(必要な場合)
    社内に通訳ができるスタッフがいればベストですが、いない場合は、技能実習生であれば「監理団体」、特定技能であれば「登録支援機関」に速やかに連絡を入れ、通訳の同行や書類作成のサポートを依頼してください。当事務所で担当したケースでも、監理団体との密な連携が取れている企業様ほど、行政手続きが滞りなく完了している印象があります。
外国人マネージャーの男女

対応を誤った場合・隠した場合のリスクとは?

「外国人だから少し手続きが遅れても大丈夫だろう」「小さなすり傷・打撲だし、本人が大丈夫と言っているから報告しなくていいや」といった軽い気持ちでの初動の誤りや遅れは、会社経営を揺るがす甚大なリスクへと発展します。

法的リスク・罰則の内容

最も重い法的リスクは「労災隠し」による処罰です。労災が発生したにもかかわらず、労働者死傷病報告を提出しなかったり、虚偽の報告をしたりした場合、労働安全衛生法第120条に基づき、「50万円以下の罰金」が科されます。

罰金50万円なら大したことはないと思われるかもしれませんが、本当のリスクは金額そのものではありません。

  • 前科がつく:罰金刑であっても刑事罰ですので、会社(法人)および経営者や人事責任者個人に刑事前科がつきます。
  • 入管法上のペナルティ:外国人雇用を行っている企業にとってこれが最大の致命傷となります。技能実習生や特定技能の受け入れ企業が労基法や労働安全衛生法に違反して処罰された場合、「不正行為(欠格事由)」とみなされ、今後数年間にわたり外国人の受け入れが一切できなくなる可能性が極めて高くなります。
  • 企業名の公表:悪質なケースでは労働局から企業名が公表され、社会的信用が失墜し、日本人の採用活動にも致命的な悪影響を及ぼします。

労働者・家族とのトラブルに発展するケース

行政からの処分だけでなく、労働者本人やその家族との間で泥沼の民事紛争に発展するケースも増えています。当事務所でも、初期対応を誤ったがために数千万円規模の損害賠償請求にまで発展してしまった企業様からの相談を受けた実績があります。

  • 「会社が労災を隠そうとした」という不信感
    怪我をした直後に、会社が「これで治療費に当ててくれ」と現金を数万円手渡し、健康保険を使って通院させようとするケースです。会社側に悪気がなくても、労働者側から見れば「労災を隠蔽された」「国からの正当な補償を受ける権利を奪われた」と捉えられます。
  • SNSや外部労働組合への駆け込み
    現代の外国人労働者は、インターネットを通じて同郷のコミュニティやSNSで強力に繋がっています。会社への不信感が募ると、本人が母国語でSNSに投稿して炎上したり、外国人労働者の支援を行う外部の労働組合に駆け込んだりします。ある日突然、弁護士や労働組合から、会社の安全配慮義務違反を理由とした損害賠償請求が届く事態になりかねません。

外国人労働者の労災対応や初動に不安がある場合は、事態が深刻化する前にお気軽にご相談ください。

労災発生後に見直すべき外国人雇用の社内体制とは?

不幸にも労災が発生してしまった場合、それを単なる「事故」として終わらせるのではなく、二度と同じ悲劇を繰り返さないため、そして会社の防衛のために、社内体制を根本から見直す機会にする必要があります。

雇用契約・就業規則の整備

まずは、外国人労働者向けの就業規則や雇用契約書の文面を確認してください。

  • 労災が発生した際の報告義務が、就業規則上において労働者側にも明確に規定されているか(「怪我をした場合は軽微であっても直ちに上長に報告すること」など)。
  • 私傷病(プライベートの怪我・病気)と労災(業務上の怪我)の取り扱いや、休業期間中の保障についての規定が、法律に合致した形で整備されているか。

これらが曖昧なままだと、労災の認定を巡って会社と労働者の意見が対立した際に、就業規則が会社を守る盾になってくれません。

※ 関連記事:就業規則、形骸化していませんか?服務規律・解雇ルールの見直しポイント

多言語での安全教育

労災が発生したということは、現場の安全指示や危険予測が労働者に正しく伝わっていなかった可能性があります。「日本語で一通り説明して、本人が『はい』と言ったから理解しているはずだ」という思い込みは非常に危険です。彼らの「はい」は、「あなたの言葉は聞こえました」という意味であって、「内容を理解し、危険性を認識しました」という意味ではないことが多々あります。

以下の具体的な対策を社内で徹底してください。

  • 写真やイラスト、動画を用いた安全マニュアルの作成
    文字による説明を極力減らし、「やってはいけない危険な動作」をバツ印とともに視覚的に伝えるマニュアルを作成します。
  • 「指差し呼称」の母国語化・ルール化
    建設現場や製造ラインでの安全確認を、本人の母国語の音のままで定着させる、あるいは現場共通の明確なハンドサインを導入することが有効です。

まとめ

外国人労働者の労災対応において、最も大切なことは「日本人と区別せず、法律に則って迅速かつ誠実に初動対応を行うこと」、そして「言葉や文化の壁に配慮し、本人の不安を徹底的に取り除くこと」です。

外国人労働者であっても、日本の強力な労働法と労災保険制度が労働者を守ってくれます。これを正しく活用せず、隠蔽しようとしたり、対応を後回しにしたりすることこそが、会社にとって最大のリスクとなります。

しかし、実際の現場では、怪我の程度に応じた臨機応変な判断が求められ、提出書類の書き方一つとっても「これで本当に足りているのだろうか」と不安になる場面が多いのが現実です。労働者側やその家族、監理団体との関係が少しでもこじれそうだと感じた場合は、事態が深刻化する前に、ぜひお早めに弁護士へご相談ください。

なお、労災を未然に防ぐための具体的な予防策や事前対策については、以下の別記事でさらに詳しく解説しています。ぜひ合わせてご一読いただき、事故のない現場づくりにお役立てください。

※ 関連記事:外国人労働者の労災リスクと予防策|企業が負う安全配慮義務と事前対策

記事監修

吉野モア法律事務所 代表

弁護士:吉野誉文

京都大学法科大学院卒業 大阪弁護士会所属。
2022年に吉野モア法律事務所を開所し、主に中小企業のコンプライアンス問題や外国人労働者等の労災・労務問題、事業リスク・事業開発に伴う法的アドバイス等を実施。
直近は「トラブルが起こる前に備える」企業法務を目指し、組織づくりや次世代経営者育成なども手掛けている。

参考資料

※1 外国人労働者向け労災保険給付パンフレット(厚生労働省)