安全配慮義務とは?具体例と企業が取るべき対策【弁護士解説】

「従業員がメンタル不調を訴えて休職してしまった」「長時間労働が続いている部下の健康状態が心配だ」。経営者や管理職の皆様にとって、従業員の健康管理は避けて通れない重要な課題です。

その中で頻繁に耳にするのが「安全配慮義務」という言葉。言葉自体は知っていても、具体的に「会社がどこまで責任を負うべきなのか」「万が一の際、どのような基準で法的な責任を問われるのか」を正確に理解できている方は意外に少ないかもしれません。

この記事では、企業の経営者・管理職の皆様に向けて、安全配慮義務の基礎知識から具体的な裁判例、そしてリスクを回避するために明日から取り組むべき対策について、弁護士の視点でわかりやすく解説します。

💡この記事のまとめ

会社および管理職は、正社員や派遣社員を含むすべての従業員の生命や心身の健康を守るため、客観的な労働時間の把握やハラスメント対策、健康診断後のフォローなどを含む「安全配慮義務」を尽くす必要があります

  • 重要ポイント:
    • 義務違反の判断基準:事故や疾患が「予見可能であったか」、そして業務軽減や休暇の勧奨など「回避するための適切な措置を講じていたか」が厳しく問われます。
    • 違反となる具体例: 月80時間を超える残業の常態化やハラスメントの看過といったメンタルヘルスに関するケースや、機械の安全装置不備や安全教育の不足といった作業安全に関するケースが挙げられます。
    • 実務対応(5つの対策): ICカード等による労働時間の正確な把握、社内外の相談窓口の設置、不調のサインに気づくための管理職教育、健康診断後の事後措置(就業制限など)、休職・復職ルールの就業規則への明記が不可欠です。
  • 根拠法:
    • 労働契約法

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安全配慮義務の本質と法的な位置づけ

安全配慮義務の定義とは?

安全配慮義務とは、一言で言えば「会社が従業員を働かせるにあたって、従業員の生命や身体の安全を確保できるよう、必要な配慮をする義務」のことです。

この義務は、労働契約法第5条において次のように定められています。

使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

かつては判例によって認められていた概念でしたが、現在は法律に明文化されており、会社が負うべき極めて重い責任となっています。

誰が義務を負い、誰を守るのか

「使用者」とは会社そのものを指しますが、現場で指揮命令を行う管理職の方々も、会社に代わってこの義務を履行する立場にあります。また、対象となるのは正社員だけでなく、契約社員、パート・アルバイト、さらには実態として指揮命令下にある派遣社員なども含まれます。

結果論」ではない注意義務

誤解されやすい点ですが、安全配慮義務は事故が起きたら義務違反が認められてしまうという無過失責任ではありません。ポイントは、その事故や発症が「予見可能であったか(予見可能性)」、そして「回避するための適切な措置を講じていたか(回避可能性)」という点にあります。

【具体例】どのようなケースで「違反」とされるのか

安全配慮義務違反が問われるケースは、大きく分けて「身体的な事故」「精神的な不調(メンタルヘルス)」の2つに分類されます。特に近年、中小企業において深刻な問題となっているのは後者です。

メンタルヘルス・過労死に関するケース

現代の安全配慮義務において、最も注視すべき分野です。

  • 長時間労働の放置: 月80時間を超えるような時間外労働が常態化しており、会社がそれを把握しながら是正措置をとらなかった場合。
  • ハラスメントの看過: パワーハラスメントやセクシャルハラスメントが発生していることを知りながら、適切な調査や配置転換を行わず、従業員がうつ病を発症した場合。
  • 過度な業務負荷: 人員不足の中で特定の従業員に責任が集中し、心身の限界を超えているサイン(欠勤が増える、ミスが目立つなど)を見逃した場合。
うつ病になってしまった従業員

※こちらの記事も併せてご覧ください:部下がうつ病になった際の管理職の責任 | 対応方法と就業規則

職場環境・作業安全に関するケース

  • 機械の安全装置の不備: 工場などで防護カバーが外れたまま作業をさせていた。
  • 安全教育の不足: 危険な薬品や機材を扱う際、十分な教育を行わずに作業に従事させ、負傷させた。
  • 施設の不備: オフィス内の段差や滑りやすい床など、転倒の危険がある箇所を放置していた。
建設の作業現場

部下がうつ病になった時、会社の責任はどう問われるか?

部下がメンタル不調になったのは本人の性格の問題ではないか?というご相談をいただくこともあります。しかし、裁判実務では業務と発症の因果関係が厳しく問われます

安全配慮義務違反が認められる判断基準

裁判所は主に以下の3点を確認します。

  1. 業務による負荷の程度: 厚生労働省の労災認定の基準※1にも照らし、長時間労働や過重なストレスがあったか。
  2. 会社の認知: 会社が、その従業員の健康状態が悪化していることを知っていたか、あるいは知ることができたか。
  3. 対策の有無: 産業医への相談、業務量の軽減、休暇の勧奨など、具体的な手を打ったか。

損害賠償のリスク

もし安全配慮義務違反が認められた場合、会社は多額の損害賠償責任を負う可能性があります。

  • 慰謝料: 精神的苦痛に対する賠償。
  • 逸失利益: もし健康に働けていたら将来得られたはずの賃金。
  • 治療費・休業損害: 治療にかかった費用や、働けなかった期間の給与補填。

特に過労自殺などの悲劇的なケースでは、賠償額が数千万円から1億円を超えることも珍しくありません。これは企業にとって、経営の根幹を揺るがす甚大なリスクとなります。

※こちらの記事も併せてご覧ください:製造現場の労災・死亡事故を防ぐ:安全衛生管理体制と事業者の法的責任チェックリスト

中小企業が取り組むべき5つの対策

「うちは人数が少ないから、大企業のような産業医の選任などは難しい」と思われるかもしれません。しかし、中小企業だからこそできる、細やかな目配りが最大の防御になります。ここでは、5つの対策をご紹介します。

①労働時間の正確な把握

自己申告制だから実態はわからないという言い訳は裁判では通用しません。ICカード、パソコンのログ、タイムカードなど客観的な記録で労働時間を管理し、長時間労働者にはアラートを出す仕組みを整えましょう。

②相談窓口の設置と周知

ハラスメントやメンタル不調を早期に発見するため、気軽に相談できる窓口を設置してください。社長や上司に直接言うのは気が引けるという従業員のために、外部の専門家(社労士や弁護士)を活用するのも一つの手です。

③管理職への教育

現場で部下と接する管理職が、安全配慮義務の意識を持つことが不可欠です。「最近、挨拶の声に元気がない」「遅刻が増えた」といった些細な変化をキャッチし、適切に声をかけるトレーニングを行いましょう。

④健康診断後のフォロー

健康診断を受けさせるだけで満足していませんか?要再検査や要精密検査が出た従業員に対し、実際に受診したかを確認し、必要に応じて就業制限(残業禁止など)をかけることが法律上の義務(事後措置)です。

⑤就業規則と規程の整備

メンタルヘルス不調による休職・復職のルールを明確にしておくことで、トラブルを未然に防ぎ、万が一の際もルールに基づいた適切な対応が可能になります。

社内の規程を見直す様子

トラブルを未然に防ぐ就業規則の見直しについては、こちらの記事(就業規則どこから見直す?労務トラブル予防のポイント)もご覧ください。

Q&A:現場でよくある疑問

Q1:本人が「大丈夫です」と言っている場合でも、休ませる必要はありますか?

A1:はい、必要がある場合があります。 責任感が強い従業員ほど大丈夫と言いがちですが、客観的な労働時間が過度であったり、明らかに体調が悪そうであれば、会社には受診命令や強制的な休息を命じる権限と義務があります。本人の言葉を鵜呑みにせず、客観的な状況で判断してください。

Q2:プライベートの悩みが原因でうつ病になった場合も、会社の責任になりますか? 

A2:原則として、業務との因果関係がなければ責任は負いません。 ただし、プライベートで悩んでいることを知っていながら、さらに過酷な業務を割り当てて症状を悪化させたような場合は、一部の責任(安全配慮義務違反)を問われる可能性があります。

Q3:中小企業には「努力義務」にとどまる項目もあると聞きましたが? 

A3:いいえ、安全配慮義務そのものに企業規模による例外はありません。 ストレスチェックの実施義務など、人数によって免除される事務手続きは一部ありますが、「従業員の命と健康を守る義務」は、従業員1人の会社であっても等しく課せられます。

まとめ

安全配慮義務は、単に法律で決まっているから守るものではありません。従業員が安心して健康に働ける環境を整えることは、結果として生産性の向上や離職率の低下、そして企業の社会的信頼の獲得につながります。

うちは大丈夫だろうという過信が、取り返しのつかない事態を招くこともあります。少しでも不安を感じる状況があるなら、まずは現状の労務管理に漏れがないかチェックすることをお勧めします。

弁護士への相談をご検討ください

安全配慮義務への対応は、各企業の業種や実態によって最適解が異なります。 「今の管理体制で法的に問題ないか不安だ」 「メンタル不調を訴える従業員への対応に困っている」 「万が一、損害賠償を請求されたらどうすればいいのか」

当事務所では、多くの企業様の顧問弁護士として、労務トラブルの予防から紛争解決まで幅広くサポートしております。手遅れになる前に、ぜひ一度、初回無料相談をご活用ください。貴社の状況に寄り添った、具体的かつ現実的なアドバイスをさせていただきます。

記事監修

吉野モア法律事務所 代表

弁護士:吉野誉文

京都大学法科大学院卒業 大阪弁護士会所属。
2022年に吉野モア法律事務所を開所し、主に中小企業のコンプライアンス問題や外国人労働者等の労災・労務問題、事業リスク・事業開発に伴う法的アドバイス等を実施。
直近は「トラブルが起こる前に備える」企業法務を目指し、組織づくりや次世代経営者育成なども手掛けている。

参考資料

※1 厚生労働省「精神障害の労災認定」https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken04/dl/120215-01.pdf