【中小企業向け】生成AI利用は著作権侵害になる?重要な法改正と社内ルールの作り方

生成AI利用は著作権侵害になる?

昨今、ChatGPTや画像生成AIなどの「生成AI」を業務に活用する動きが急速に広がっています。製造業での製品デザインのヒント出しや、建設業での施工計画書のドラフト作成など、人手不足に悩む中小企業にとって生成AIは強力な武器となります。

しかし、その利便性の裏には、これまでのITツールとは比較にならないほど巨大な「著作権侵害リスク」が潜んでいます。特に2024年(令和6年)1月から施行された改正著作権法により、万が一侵害が発生した際の損害賠償額が認められやすくなりました。

本記事では、知らぬ間に「加害者」となり、巨額の賠償リスクを背負わないために、中小企業が今すぐ取り組むべきコンプライアンス対策を専門弁護士が徹底解説します。

💡この記事のまとめ

企業は生成AIの不適切な業務利用による著作権侵害を防ぐため、明確な「AI利用ガイドライン」の策定と従業員へのコンプライアンス教育を実施する必要があります。これを放置すると、法改正によって高額化した損害賠償や最大3億円の罰金といった重大な経営リスクを背負う恐れがあります。

  • 重要ポイント:
    • 損害賠償の高額化: 2024年1月の法改正により、権利者の販売能力を超える部分も「ライセンス料相当額」として請求可能になり、より高額な賠償が認められやすくなりました。
    • 生成AI利用のリスク: 製品デザインの類似生成や他社マニュアルの書き直しなど、現場での無意識のAI利用が複製権や翻案権の侵害となる恐れがあります。
    • 実務対応: 他社著作物の入力禁止や出力物の類似性チェックの義務化を含むガイドラインを策定し、定期的な社内勉強会や相談窓口を設置することが求められます。
  • 根拠法: 著作権法

ぜ今、著作権対策が急務なのか?

2024年1月の法改正(著作権法第114条等の改正)により、著作権侵害訴訟において認められる損害額が拡大しました(※1)。これまでは権利者側の損害の立証が困難な場合が多く、権利者が勝訴し、損害賠償請求が認められたとしても、充分な賠償額が受けられない場合がありました。

※著作権・肖像権に関してはこちらの記事(知らないでは済まされない!著作権・肖像権の基本と罰則を解説)でも詳しく解説しています。

販売能力を超える損害も「ライセンス料」として請求可能に

改正前は、権利者の販売能力(生産能力)を超える部分については、侵害者がどれだけ利益を上げていても損害賠償を請求できないケースがありました。 改正後は、この「販売能力を超える部分」についても、「ライセンス料相当額」として上乗せして請求できるようになりました。

ライセンス料相当額の「増額」規定

裁判所が損害額を算定する際、侵害があったことを前提として後から交渉したならば決まったであろうライセンス料を考慮できるようになりました。侵害を前提とするということは、権利者にとっては諾否の自由がなく、契約上の制限についても交渉できずにライセンス契約を締結したということと同義です。つまり、正規の契約を結ばずにAIで勝手に生成・利用したことへのペナルティとして、通常の相場よりも高い金額を支払わされる可能性が高まったのです。

法人に対する最大3億円の罰金(2024年以前の改正)

著作権侵害は民事上の賠償だけでなく、刑事罰の対象にもなります。従業員が業務として侵害行為を行った場合、実行した本人だけでなく、会社(法人)に対しても最大3億円の罰金が科せられる可能性があることを忘れてはなりません。

製造業・建設業でやってしまいがちなAI侵害の落とし穴

製造業や建設業の現場では、生成AIを検索エンジンの延長として使ってしまうことで、無意識のうちに著作権を侵害するケースが目立ちます。

製品カタログや図面の「構成案」生成

事例①:製品カタログや図面の「構成案」生成

製品の新しいデザインを考える際、競合他社のヒット商品の画像をAIに読み込ませ、「これに似たテイストで、もっと安価に見えるデザイン案を出して」と指示したとします。 AIが出力したデザインが、他社の意匠や著作物としての創作性を維持したまま酷似していた場合、それを基に製品を製造・販売すれば、「複製権」や「翻案権」の侵害となります。

事例②:施工マニュアルや安全教育資料の作成

他社の優れた施工マニュアルや、有料の技術解説記事をAIに丸ごと読み込ませ、「自社向けに書き直して」と指示するケースです。 AIは既存の文章を組み替えて出力しますが、元の文章の表現上の特徴が残っていれば、それは「翻案」にあたる可能性があります。

事例③:WebサイトやSNSでのプロモーション画像

自社のWebサイトを彩るために、「〇〇(有名な写真家やイラストレーター)風の建築写真」をAIで生成し、掲載した場合です。特定の作家の作風を強く反映した生成物は、権利侵害と判断される可能性が高く、民事責任及び刑事責任を受けるおそれがある上に、企業のブランドイメージを著しく損なう結果となります。

吉野モア法律事務所では、中小企業の皆様向けの「コンプライアンスリスク診断」から承っております。どんなリスクが潜んでいるか、まずはチェックしてみたいという方はぜひお気軽にお問い合わせください。

>>コンプライアンスリスクに関するご相談(初回無料)はこちら

実務で使える「AI利用ガイドライン」の作り方

「AIを使うな」と禁止するだけでは、社員の隠れ利用を招き、かえってリスクが不透明になります。会社として「安全な使い方」を定義するガイドラインが必要です。ガイドラインには、以下のような項目を定めておくことがポイントです。

実務で使える「AI利用ガイドライン」の作り方

「入力」に関する禁止事項

  • 他社の著作物の無断入力禁止: 書籍の全文、他社の図面、有料記事などをAIに学習・処理させる目的で入力することを禁止します。
  • 機密保持の徹底: 著作権以前の問題として、顧客から預かった設計データなどを入力すると、AIの学習データとして取り込まれ、秘密保持義務違反等に繋がるリスクを周知します。

「出力」に関する確認フロー

  • 類似性チェックの義務化: AIが生成したテキストや画像が、既存の他社製品や著作物と似ていないかを必ず人間が検索・確認する工程を設けます。
  • AI生成物の無修正利用の禁止: AIの回答をそのまま納品物や公開物にするのではなく、必ず人間が大幅に手を加え、「自社の創作物」としての実態を持たせるルールにします。

従業員教育と「相談しやすい環境」の構築

ルールを作るだけでは不十分です。特に現場の職人肌の社員や、ITに詳しくない担当者ほど便利な道具を見つけたという軽い気持ちでリスクを冒しがちです。

  • 定期的な社内勉強会の実施: 裁判例など、具体的な事例を利用した勉強会が効果的です。
  • 「相談窓口」の設置: 現場から生成AIの利用に関する質問が出た際、法務担当や顧問弁護士に確認できる体制を整えます。

建設業や製造業では、JVや下請構造の中でのやり取りも多いため、自社が加害者になるだけでなく、下請企業がAIで作成した著作権侵害物を自社が受け取ってしまうリスクもあります。契約書の中に、下請企業の成果物が知的財産権を侵害していないことの表明保証条項を盛り込むなどの高度な対策も検討すべきです。

時代の変化に対応し、トラブルを未然に防ぐために

生成AIは、正しく使えば中小企業の生産性を劇的に向上させることができるものです。しかし2024年の法改正は、知的財産を軽視する企業に対して、これまで以上に厳しい責任を求めるものとなっています。そして、これは生成AIの利用の場面でも注意が必要です。

デジタル化が進む現代、著作権侵害は拡大化しやすく、想定以上の責任を負うおそれが高まっています。

当事務所では、製造業・建設業特有の業務フローに合わせた「生成AI利用ガイドライン」の策定支援や、最新判例に基づいたコンプライアンス研修を提供しています。

少しでも不安を感じられた経営者の方は、大きなトラブルに発展する前に、ぜひ一度専門家である当事務所へご相談ください。貴社の技術と信用を守るための、最適な守り方を共に構築していきましょう。

※1: 文化庁「令和5年通常国会 著作権法改正について

記事監修

吉野モア法律事務所 代表

弁護士:吉野誉文

京都大学法科大学院卒業 大阪弁護士会所属。
2022年に吉野モア法律事務所を開所し、主に中小企業のコンプライアンス問題や外国人労働者等の労災・労務問題、事業リスク・事業開発に伴う法的アドバイス等を実施。
直近は「トラブルが起こる前に備える」企業法務を目指し、組織づくりや次世代経営者育成なども手掛けている。