個人情報保護と情報セキュリティ-法律事務所が教える企業の義務と対応

現代社会は、スマートフォンやインターネットの普及により、誰もが膨大な情報を生み出し、利用するデジタル時代に突入しました。生活は便利になった一方で、個人情報がさまざまなサービスやビジネスで活用されるようになりました。

企業にとっては、顧客の個人情報は事業の根幹をなす重要な資産です。しかし、この大切な資産は、ひとたび漏洩すれば企業の存続を揺るがしかねない大きなリスクでもあります。

情報漏洩の主な原因は、不正アクセス誤操作管理ミスなど、多岐にわたります。こうした事態を防ぎ、顧客からの信頼を守るために、企業は個人情報保護と情報セキュリティ対策に真剣に取り組む必要があります。

本記事では、 個人情報保護法の概要や企業に課せられた義務、情報セキュリティ対策、そして万が一の事態に備えた対応フローについて、法律の専門家として解説します。

記事監修

吉野モア法律事務所 代表

弁護士:吉野誉文

京都大学法科大学院卒業 大阪弁護士会所属。
2022年に吉野モア法律事務所を開所し、コンプライアンス問題や外国人労働者等の労災・労務問題、事業リスク・事業開発に伴う法的アドバイス等を実施。
直近は「トラブルが起こる前に備える」企業法務を目指し、組織づくりや次世代経営者育成なども手掛けている。

第1章:個人情報保護とは

個人情報保護法は、個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利や利益を守ることを目的とした法律です。この法律は、単に「情報を守る」という抽象的な概念ではなく、企業が個人情報をどのように扱い、管理すべきかを明確に定めています。

「個人情報」とは何か

法律上は、「生存する個人に関する情報であって、氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるものと定義されています。

これには、氏名、住所、電話番号、メールアドレスといった一般的な情報だけでなく、他の情報と組み合わせることで個人を特定できる情報(例えば、会員番号や映像データ)も含まれます。

「要配慮個人情報」について

これは、人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪被害に関する情報など、不当な差別や偏見につながりうる個人情報のことです。これらの情報は、通常の個人情報よりも厳格な取り扱いが求められます。

企業が個人情報を扱う際には、これらの個人情報保護法の定義を正しく理解し、情報一つひとつを大切に扱う姿勢が不可欠です。

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第2章:企業が知っておくべき個人情報保護法の義務

個人情報保護法は、個人情報を取り扱うすべての事業者に様々な義務を課しています。ここでは、特に重要な以下3つの義務について解説します。

  1. 利用目的の特定
  2. 第三者提供の制限
  3. データ漏洩時の報告義務と本人への通知

利用目的の特定

企業は個人情報を取得する際、その利用目的をできる限り具体的に特定し、本人に通知または公表する義務があります。

例えば、「事業活動に用いるため」といった曖昧な表現ではなく、「商品・サービスの提供」「新商品のご案内」といった形で、何のためにその情報を取得するのかを明確にしなければなりません。これにより、個人情報の不必要な利用や、目的外での利用を防ぎます。

第三者提供の制限

企業が保有する個人データを他社に提供する際は、原則としてあらかじめ本人の同意を得る必要があります。これは、顧客リストやメールアドレスを外部企業、子会社や親会社に提供する場合などに適用されます。ただし、法令に基づく場合や、合併等による事業承継の場合など、例外も存在します。

データ漏洩時の報告義務と本人への通知

個人データの漏洩や紛失、滅失、毀損といった事態が発生した場合で、個人の権利利益を害するおそれが大きいものとして個人情報保護委員会規則7条で定める事態が発生した場合、企業は個人情報保護委員会に速やかに報告し、本人にも通知する義務があります。

規則で定める事態とは、

  • 「要配慮個人情報」が含まれる個人データが漏洩した場合
  • 不正に利用されることにより財産的被害が生じるおそれがある個人データの漏えいの発生(又は発生したおそれがある場合)

等が定められています。

なお、漏洩に限らず、個人データが記載又は記録された書類・媒体等を社内で紛失した場合(滅失)や、暗号化処理された個人データの復元キーを喪失したことにより復元できなくなった場合(毀損)も含まれるので注意が必要です。

第3章:情報セキュリティ対策の重要性と具体的な対応

個人情報保護法の義務を果たすためには、情報セキュリティ対策が欠かせません。この対策は、大きく物理的、技術的、組織的の3つの側面から考えることができます。

物理的セキュリティ

これは、個人情報が記録された物理的な媒体(書類、PC、サーバーなど)を外部の脅威から守る対策です。具体的には、オフィスへの入退室管理鍵付きの書庫やロッカーでの書類保管サーバー室へのアクセス制限などが挙げられます。従業員が離席する際にPCをロックすることも、物理的セキュリティの一環です。

技術的セキュリティ

サイバー攻撃や不正アクセスから情報を守るための対策です。これには、不正アクセス対策(ファイアウォール、IDS/IPSの導入)、ウイルス対策ソフトの導入と定期的なアップデート、データの暗号化パスワードの強化などが含まれます。また、個人情報保護委員会のガイドラインでは、技術的対策として「アクセス制御」や「外部からの不正アクセス防御」の重要性が示されています。(※1)

組織的セキュリティ

組織全体で情報保護を徹底するためのルール作りと運用です。具体的には、個人情報保護規程の策定個人情報保護責任者の設置従業員に対する定期的な教育アクセス権限の管理などが該当します。どんなに優れた技術を導入しても、それを扱う人がルールを守らなければ意味がありません。従業員一人ひとりが個人情報保護の重要性を理解し、責任を持って行動することが何よりも重要です。

第4章:情報漏洩が起きた場合の対応フロー

どんなに厳重な対策を講じていても、情報漏洩のリスクをゼロにすることはできません。万が一、事態が発生した場合に備え、迅速かつ適切に対応するためのフローをあらかじめ策定しておくことが重要です。

初動対応
情報漏洩の疑いが発生した時点で、まず被害の拡大を防ぐことが最優先です。事態の確認、情報漏洩した個人データの特定、原因の究明、システムの停止、被害を受けたPCの隔離などを行います。この段階で、関係部署(情報システム部門、法務部門など)と連携し、迅速な対応チームを立ち上げるべきです。
監督官庁への報告と本人への通知
第2章で述べた個人情報保護委員会への報告と本人への通知は、事態が判明してから速やかに行う必要があります。報告書には、漏洩した個人データの概要、原因、再発防止策などを記載します。本人への通知は、具体的な漏洩内容、企業が講じた対策、相談窓口などを分かりやすく伝えることが大切です。
再発防止策の策定と公表
事態が収束した後も、なぜ情報漏洩が起きたのかを徹底的に分析し、根本的な再発防止策を策定しなければなりません。これには、システムの見直し、セキュリティ体制の強化、従業員教育の再徹底などが含まれます。そして、これらの対策を公表することで、社会からの信頼回復に努めることが重要です。

    第5章:当事務所がサポートできること

    情報保護に関する課題は、単なる技術的な問題や社内ルールの問題にとどまらず、法的なリスクが常に伴います。不適切な対応は、損害賠償請求や行政処分、社会的信用の失墜といった深刻な事態を招きかねません。

    吉野モア法律事務所では、法律の専門家として、以下の点で企業の個人情報保護体制構築をサポートします。

    • プライバシーポリシーや社内規程の作成支援:事業内容に即した、実効性のある規程を策定します。
    • 従業員向け研修の実施:個人情報保護の重要性や具体的な行動規範について、分かりやすく解説します。
    • 情報漏洩時の法的アドバイス:法的観点から初動対応や対外的な説明、再発防止策についてアドバイスします。

    まとめ

    個人情報保護は、もはや一部の企業だけが取り組むべき課題ではありません。事業規模にかかわらず、すべての企業にとっての必須事項であり、企業としての信頼性を測る重要な指標となっています。

    情報セキュリティ対策を強化し、個人情報保護法を遵守することは、単なる義務ではなく、顧客との信頼関係を築き、持続的な成長を実現するための重要な投資と言えます。

    吉野モア法律事務所は、企業様が安心して事業を継続できるよう、個人情報保護のパートナーとして全力でサポートいたします。どんな些細な疑問でも、お気軽にご相談ください。