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多様化する働き方や労働関連法の改正に対応できていない就業規則は、知らず知らずのうちに形骸化し、従業員との認識のズレや予期せぬ労務トラブルの引き金になります。とりわけ中小企業では、人的リソースが限られる分、ひとつのトラブルが経営に与える影響も大きくなりがちです。
本記事では、「採用」「労働時間」「有給休暇」「休職・復職」「副業・兼業」の5つの領域を中心に、実務上ありがちなトラブルとその背景、そして就業規則で対応すべき見直しポイントを解説します。
※服務規律や解雇に関する就業規則の見直しについては、こちらの記事(就業規則、形骸化していませんか?服務規律・解雇ルールの見直しポイント)をご覧ください。
吉野モア法律事務所 代表
京都大学法科大学院卒業 大阪弁護士会所属。
2022年に吉野モア法律事務所を開所し、コンプライアンス問題や外国人労働者等の労災・労務問題、事業リスク・事業開発に伴う法的アドバイス等を実施。
直近は「トラブルが起こる前に備える」企業法務を目指し、組織づくりや次世代経営者育成なども手掛けている。
日本ではこれまで、「休むこと」や「短く働くこと」が従業員の権利として明確に認識されにくい傾向がありました。しかし、働き方が多様化する現代においては、これらの要素が従業員の基本的な権利として理解されることが不可欠です。
企業は、国が新しく定めた労働に関するルールを「所与の前提」として受け止め、その法的枠組みの中で「いかに適切に運用できるか」を考える必要があります。就業規則は、まさにその適切な運用を実現するための「ルール作り」の仕組みなのです。
この理解が不足すると、企業は予期せぬ労務トラブルに直面するリスクがあります。例えば、育児休業制度を利用した社員に対する不利益な扱いは、裁判で慰謝料の支払い責任を認められるケースもあります。また、不適切な対応は人材流出や企業イメージの毀損にも繋がりかねません。
多くの企業が厚生労働省のモデル規定をベースに試用期間を定めていますが、そのままでは運用上不十分な場合があります。
例えば、「3ヶ月間の試用期間」という規定だけでは、労働者の適性を見極めきれなかった場合でも期間の延長ができないという問題が生じます。
また、「試用期間中に労働者として不適当と認めた場合は解雇できる」という規定も、具体的にどのような場合に解雇が認められるのかが不明確だと、いざ解雇しようとした際にその正当性を立証できず、トラブルに発展するリスクがあります。
▼見直しのポイント:
多くの企業で、残業の「事前許可制」が導入されています。しかし実際には、業務の都合で黙認されたり、形だけの運用にとどまっていたりするケースが散見されます。
このような状況で許可制の規定を置いているだけでは、就業規則のルールが有名無実化し、結果として残業代の未払いや労災の引き金になります。過去の判例では、定期的な残業申請書の提出指導や無許可残業に対する書面での注意や処分の徹底など、非常に厳密な対応を行っていた企業がようやくその正当性を認められました。
また、法律上働く時間とは「指揮監督下にある時間」と定義されますが、この「指揮監督下」という言葉は抽象的で、具体的にどの時点からが労働時間と見なされるのかが不明瞭な場合があります。
例えば、朝礼が9時からでも「10分前には席に着くように」といったルールがある場合、その10分間が労働時間とされないことに対して従業員が不満を抱き、トラブルに発展することがあります。
▼見直しのポイント:
有給休暇は、法律で労働者に保障された権利です。たとえ就業規則で「7日前までに届出が必要」と規定されていても、2日前の申請を一律に認めないことは違法となる可能性が高いです。使用者は、事業の正常な運営を妨げる場合にのみ時季変更権を行使できますが、その判断は客観的に行う必要があります。
▼見直しのポイント:
休職に関する規定も、厚生労働省のモデル規定をそのまま採用しているだけでは、現代の多様な休職事例に対応しきれない場合があります。特に問題となりやすいのは、休職期間中の給与の有無、休職中の副業禁止、病状報告の義務、そして休職と復職を繰り返すような制度の悪用に対する防御策の欠如です。
▼見直しのポイント:
働き方改革の影響で、副業・兼業を認める企業も増えていますが、就業規則上の整備が追いついていないケースも多く見られます。「労働者は勤務時間外に他の業務に従事できる」のが原則ですが、これに関する規定も運用に工夫が必要です。
例えば、副業の届け出が「いつ」必要なのか(事前か事後か)が不明確だと、トラブルの元になります。また、副業に関する状況報告や、許可の取り消し条件が曖昧な場合も問題です。
▼見直しのポイント:
就業規則は、一度作成したら終わりではありません。労働関連法令の頻繁な改正や、従業員の多様化、そして働き方の変化に対応するためには、常に「生きるルール」として見直し、実態に即して運用していくことが不可欠です。
法改正によって必須となる分野(例:育児介護休業法など)はもちろん、現場でのトラブルが頻発している項目を優先的に見直すことが重要です。
例えば、
といった形です。
その際は、管理職・現場従業員からのヒアリングも参考にし、「実態とルールのギャップ」がないかも点検しましょう。
作成した就業規則を単に労働基準監督署に提出するだけでなく、組織全体で正しく理解し浸透させることが重要です。特に、現場で従業員と接するマネージャー層がルールを正確に理解し、適切に運用できる体制を整える必要があります。
具体的な仕組み作りとしては、以下のような取り組みが有効です。
就業規則は、その「形」だけでなく「実質的な中身」まで時代に合わせて変化させ、適正な経営管理体制として機能するよう運用することが不可欠です。これは単なる義務対応ではなく、労務トラブルを未然に防ぐ「予防法務」の視点からの投資です。
「こんな所で問題になるとは…」と後悔しないためにも、自社の就業規則が形骸化していないか、実態に即した見直しと運用を始めましょう。
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