就業規則、形骸化していませんか?服務規律・解雇ルールの見直しポイント

中小企業の多くが「就業規則は一応ある」状態にとどまり、服務規律や解雇のルールが実際に機能していないという課題を抱えています。特にトラブル発生時には、就業規則が企業を守る「盾」とならず、逆に責任追及の引き金になることも少なくありません。

本記事では、服務規律・解雇のルールに焦点を当てながら、就業規則を見直すべきポイントを解説します。

記事監修

吉野モア法律事務所 代表

弁護士:吉野誉文

京都大学法科大学院卒業 大阪弁護士会所属。
2022年に吉野モア法律事務所を開所し、コンプライアンス問題や外国人労働者等の労災・労務問題、事業リスク・事業開発に伴う法的アドバイス等を実施。
直近は「トラブルが起こる前に備える」企業法務を目指し、組織づくりや次世代経営者育成なども手掛けている。

就業規則の意義とは?

就業規則は、労働時間・休日・賃金体系といった基本条件や、服務規律や懲戒手続き、人事ルールなど、働く上での行動基準が網羅されたルールです。

安心して働ける職場環境を整えることは、業種や企業規模にかかわらず、すべての企業にとって重要な経営課題です。明確なルールを設けることで、労使間の誤解や衝突を防ぎ、企業の方針を社員に示す役割も果たします。

形だけの就業規則が企業にもたらすリスク

「就業規則はあるけれど、何年も中身を見直していない」「とりあえず社労士の雛形で作っただけ」―そんな状態のまま、トラブルが起きたらどうなるでしょうか?

例えば、服務規律の定義や、懲戒・解雇の要件が曖昧な就業規則では、正当な処分であっても無効とされるリスクがあります。さらに、不当解雇などのトラブルに発展した場合には、企業が損害賠償責任を負う可能性もあります。

企業を守るはずの就業規則が、逆に企業責任を生むきっかけになってしまうその背景には、実態と乖離した就業規則の存在があるのです。

3. 就業規則が“形骸化”している中小企業の特徴

以下のような就業規則は、実態と乖離した形だけのルールになっている恐れがあります。

  • 従業員が増えてきたという理由で形式的に作っただけ
  • 社労士が受け取った雛形を、そのまま導入している
  • 管理職を含め、就業規則の内容を誰も正確に理解していない
  • 服務規律や労働時間管理に関する基本的な考え方が曖昧

このような状態では、トラブル発生時に就業規則が企業を守る「盾」として機能しません。また、従業員にとっても行動の指針とならず、現場の混乱を招く要因となることもあります。

見直すべき就業規則のポイント

【服務規律】「SNS投稿」「副業」など現代的なリスクは反映されているか?

服務規律とは、従業員が遵守すべき行動ルールを定めた項目です。過去の雛形ではカバーされていない、SNS投稿・副業・情報漏えいなどの現代的な懸念が含まれていないケースも多く見受けられます。

▼現代的なリスクの例:

  • SNSでの不適切投稿(例:SNS上で、上司や会社の方針を名指しで批判する投稿をする/社内資料や顧客とのやりとりの画像を無断で掲載する)
  • 無断の副業や競業行為(競合他社のコンサルティングを副業として行っていた/社内の営業ノウハウを流用して個人事業を行っていた)
  • 業務時間中の私用スマホ・ネット利用(勤務中に頻繁にLINEで私用連絡をしている/PCに私用のUSBメモリを無断で接続した)

これらの行為については、禁止事項として明記することはもちろん、懲戒対象となる行為を明確にしたり、制限を設けるなどのルールとして明記したりと、就業規則に反映させることが重要です。

※服務規律の意義や基本的な内容についてはこちらの記事(経営理念が浸透しない理由とは?人事から始めるコンプライアンス経営のすすめ)もご覧ください。

【解雇】「解雇できる」根拠が明確になっているか?

解雇についても、就業規則上で「どのような場合に、どのような手続きを踏むか」が明確でなければなりません。特に懲戒解雇を行うには、具体的かつ合理的な規定があることが前提です。

▼就業規則に明記すべき代表的な事由例:

  • 正当な理由なく無断欠勤が◯日以上に及んだとき
  • 故意または重大な過失により会社に損害を与えたとき
  • 就業時間中に職務に著しく反する行為をしたとき
  • 犯罪行為(窃盗・横領・暴力等)により、社会的信用を著しく損なったとき
  • セクハラ、パワハラ等の重大なハラスメント行為が認められたとき
  • 会社の許可なく副業や競業にあたる行為をしたとき

これらの要素が明確に定められていない状態では、いざという時に解雇理由の正当性を立証できません。

また、運用上適切なプロセス設計がされていることも非常に重要です。いきなり解雇や懲戒処分を下すのではなく、段階的に指導を行い、その都度記録を残しておくことで処分の正当性を担保できます。

経営の意思を反映した就業規則が組織を守る

就業規則は単なる社内ルールではなく、経営の意思を反映させたコンプライアンスの基盤となります。特に服務規律や解雇・懲戒といったリスクの高い領域については、現場の実態に即した設計と適切な運用ルールが不可欠です。中小企業だからこそ、形式的にルールを持つだけでなく、現場の実態に合った、運用できるルールが必要です。法的な正当性と社員への納得感を両立させるためにも、トラブルを未然に防ぐ“攻めの就業規則”を実現してみてはいかがでしょうか。

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