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企業が円滑に業務を遂行するためには、従業員の行動指針を明確に定める「服務規律」が不可欠です。服務規律は職場の秩序を維持し、業務効率化を促すだけでなく、職場内でのハラスメント防止の基盤となる重要な役割を果たします。
※関連リンク:企業の秩序を守るために不可欠な「服務規律」とは?
特に近年では、パワーハラスメント(パワハラ)やセクシュアルハラスメント(セクハラ)、マタニティハラスメント(マタハラ)など、多様なハラスメントを未然に防ぐうえで、服務規律の整備が法的にも実務的にも重要な意味を持つようになっています。本記事では、企業が法的責任を問われた事例と共に、企業が対応すべきポイントについて解説します。
セクシュアルハラスメントとは、職場での性的な言動や不適切な発言が原因で、労働者に不快感や不利益を与え、職場環境を悪化させる行為を指します。性的な冗談や身体への接触だけでなく、容姿へのコメント、私的交際の強要なども該当することがあります。
具体例:
セクハラは「受け手がどう感じるか」が判断基準になるため、企業としては就業規則で明確に禁止し、社内研修などで基準の共有を図ることが重要です。
【事例】セクハラ防止措置を怠った企業が、不法行為責任を負うとされたケース
◆概要
ある企業で、上司が部下に対して繰り返し性的な言動を行い、被害者が精神的苦痛を受けていたものの、企業側はセクハラ防止のための就業規則や相談窓口を設置しておらず、具体的な対応を怠っていました。これについて「使用者は良好な職場環境を整備する義務を負う」として、企業の責任が認められました。(広島高判 平成16年9月2日 労判881号)
◆ポイント
本件では、企業がセクハラ防止のための相談窓口や教育研修を整備していなかったことが問題視されました。企業はハラスメント防止のために、予め相談体制を整備したり、ハラスメントが発生しないように従業員への研修等を行う義務があります。
パワーハラスメントとは、職務上の地位を利用し、従業員に対して業務の適正な範囲を超えた不当な指導や精神的な圧力をかける行為を指します。
具体例:
厚生労働省の指針(職場におけるハラスメント対策パンフレット)においても「優越的な関係性を背景とした言動」「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」「労働者の就労環境が害される」の3要素が判断基準とされており、企業はこれを踏まえた社内ルールの整備と研修が求められます。
また、パワハラは指導との境界線が問題になるため、管理職に対する教育も不可欠です。指導とパワハラの境界線についてはこちらの記事(パワハラと指導の境界線は?中小企業が知るべきハラスメント対策)もご覧ください。
【事例】過重労働とパワハラが原因で社員が自殺、企業の使用者責任が認められたケース
◆概要
運送会社に勤めていた従業員が、長時間労働の中で、上司からの厳しい叱責や人格否定を受け、自殺に至りました。裁判では、企業の「安全配慮義務違反」が認められ、企業に多額の損害賠償が命じられました。(仙台高判 平成26年6月27日 労判1100号)
◆ポイント
本件では、上司の厳しい叱責と過重労働が従業員の健康に悪影響を及ぼしたという因果関係が認められたことに加え、当該上司の使用人であることから、結果的に企業の責任が問われた点がポイントです。企業には、ハラスメントを生じさせない企業風土や環境づくりが求められています。
マタニティハラスメントは、妊娠・出産・育児休業といったライフイベントに関連した不利益な取り扱いや差別的な行為を指します。本人の申し出に基づく制度利用(時短勤務や業務軽減)を拒否する行為も含まれます。
具体例:
マタハラは男女雇用機会均等法などの法令違反に直結する問題であり、明確な制度の整備と上司・同僚への周知が重要です。制度の「利用しづらさ」もハラスメントの要因となりうるため、相談窓口や面談の仕組みづくりも必要です。
【事例】妊娠中の業務転換を求めた労働者へのハラスメントが認められたケース
◆概要
介護職として就業していた従業員が妊娠のため軽易業務への転換を求めたところ、企業側がこれを拒否。その上、時間給だった当該従業員の勤務時間を一方的に短縮したり、無視をするなどのハラスメント行為を行ったため、良好な職場環境を整備する義務を怠ったとして違法と判断されました。(福岡地裁小倉支判 平成28年4月19日 労判1140号)
◆ポイント
本件では、企業が妊娠中の労働者の健康に配慮し、適切な業務転換を行う義務があるにもかかわらず、これを拒否したことが問題視されました。また、妊婦に対して「妊婦として扱うつもりはない」「流産しても覚悟を持つべき」といった発言があった点が違法とされました。企業は妊娠・出産に伴う労働者の権利を尊重し、適切な業務調整を行うことが求められます。
近年は、アカデミックハラスメント(大学や研究機関でのハラスメント)やSNS上でのハラスメントが増加しており、企業の評判を大きく損なうケースが増えています。
具体例:
法令で定義されていないハラスメントであっても、社内の秩序や従業員の健康を損なう場合には、就業規則上の懲戒対象となります。企業は広くハラスメントにあたり得る行為を定義し、対応指針を柔軟に設けておくべきです。
【事例】大学教授による女子学生へのハラスメント行為で降格処分が有効とされたケース
◆概要
大学教授が女子学生に対し不適切な言動を行い、大学側が懲戒処分を実施しました。この処分に対して教授は無効を訴えましたが、裁判所はハラスメント行為があったと認定し、処分の正当性を認めた事例です。(東京地判 令和元年6月26日 判タ1467号)
◆ポイント
本件では、教育機関においてもハラスメントの基準が適用され、教授などの権力を持つ立場の者の言動が厳しく審査されることが示されました。アカデミック・ハラスメントは法律上定義された用語ではありませんが、就業規則等においてアカデミック・ハラスメントの定義が規定されている場合は、懲戒事由の該当性を肯定することができます。
企業がハラスメントを防止するためには、就業規則の中でその禁止を明確に規定しておくことが不可欠です。企業が就業規則にハラスメント防止のルールを定めることで、以下のメリットがあります。
ハラスメント行為が発生した場合に適切な対応が取れるよう、就業規則には明確な処分基準を設ける必要があります。違反時の処分を明確にしておくことで、公平な判断が可能となり、企業の法的リスクを軽減することにも繋がります。
ハラスメントの防止措置を怠ると、企業は法的責任を負うだけでなく、職場の士気低下や人材流出を招く可能性があります。そのため、企業は明確なルールを設けるとともに、従業員が安心して働ける環境を整備する必要があることも留意しておきましょう。
本記事では、主なハラスメントの種類と事例を紹介し、企業の責任や服務規律の重要性について解説いたしました。適切なルールを定め、従業員に対する教育や予防策を実施しておくことは、職場環境の健全化を図るためだけでなく、万が一ハラスメントが起こってしまった場合の法的責任にも関係する重要な取り組みです。
次回の後編では、企業が実際に取るべきハラスメント防止策や、トラブル発生時の対応策について詳しく解説します。
(参考:新日本法規『人事労務規程のポイント-モデル条項とトラブル事例-』)
弁護士 吉野 誉文
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