中小企業におけるハラスメント研修の重要性と実施のポイント

ハラスメント研修を受ける社員

中小企業、とりわけ製造業や建設業のように家族経営でワンマン傾向があり従業員との距離が近い職場では、「うちはアットホームだから大丈夫」と思いがちです。しかし近年、職場のハラスメント問題をはじめとする企業のコンプライアンス違反は無視できないリスクとなっており、パワハラ防止措置の義務化など法的環境も大きく変化しました。本記事では、ハラスメント研修が義務化された背景から、中小企業での具体的な研修方法(管理職向け・一般従業員向け)と頻度・内容のヒントについて解説します。

記事監修

吉野モア法律事務所 代表

弁護士:吉野誉文

京都大学法科大学院卒業 大阪弁護士会所属。
2022年に吉野モア法律事務所を開所し、コンプライアンス問題や外国人労働者等の労災・労務問題、事業リスク・事業開発に伴う法的アドバイス等を実施。
直近は「トラブルが起こる前に備える」企業法務を目指し、組織づくりや次世代経営者育成なども手掛けている。

ハラスメント研修が義務化された背景と公的指針

2019年の労働施策総合推進法改正(いわゆるパワハラ防止法)によって、企業は職場のパワーハラスメント防止措置を講じることが法律で義務付けられました(※1)。当初は大企業のみが対象でしたが、2022年4月から中小企業も適用対象になり、これを怠ると指導の対象となり、最悪の場合は企業名の公表などに繋がる恐れもあります。この背景には「いじめ・嫌がらせ」に関する労働相談件数の増加があり、ハラスメントが深刻な社会問題化していることがあります。

厚生労働省が事業主に求めているハラスメント防止措置は、方針の明確化と周知・啓発②相談窓口の設置と体制整備③発生時の迅速・適切な対応の大きく3つあり、特に就業規則にハラスメント禁止規定を盛り込むことや、定期的なハラスメント研修の実施は重要なポイントとなっています。一時的な研修や掲示だけで満足せず、日々の職場で従業員一人ひとりが意識を持ち続けられるよう、継続的な教育・啓発を行うことが求められているのです。

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【階層別】管理職向けハラスメント研修のポイント

ハラスメント防止策を効果的に機能させるには、管理職への研修が不可欠です。中小企業では現場叩き上げの管理職も多く、「どこまでが指導で、どこからがパワハラか分かりづらい」という声もあります。したがって、まずは管理職自身がハラスメントの定義や法的責任を正しく理解し、適切な指導スキルを身につけることが重要です

管理職向け研修では、具体的な事例を用いて適切な叱責とハラスメントの違いを体感的に学べるような内容にすることが効果的です。例えば部下を指導するロールプレイや、過去の判例紹介を通じて「何がアウトで何がセーフか」を議論すると理解が深まります。また、パワハラ防止措置義務の観点から管理職にも法令遵守責任があることを伝え、自分が加害者とならないよう注意を促します。経営トップが参加する研修にすると、「会社全体でハラスメントゼロに取り組む」というメッセージにもなり効果的です。

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さらに、管理職はハラスメントの未然防止だけでなく、現場で相談を受け止める最前線でもあります。部下から「実は職場でこんな嫌がらせを受けている」と打ち明けられるケースもあるため、管理職にはハラスメント発生時の社内対応フローも教育しておきましょう。

研修では、相談があった際の初動(関係部署への迅速な報告、人事・法務との連携方法、記録の取り方等)についてシミュレーションすることも有効です。相談を受けたら放置せず必ずしかるべきプロセスに乗せることを徹底させることで、現場レベルでの抑止力が高まります。

なお、管理職向け研修は昇進時定期フォロー研修として継続的に実施することが望ましいです。特に管理職は組織の要として最新の知識をアップデートし続ける必要があるため、法改正や社会の動きに合わせて年1回程度の研修や講習を受けさせる企業が増えています。最新のパワハラ防止策や裁判例を学ぶ場を設け、管理職の意識を高めながら、職場での指導に自信を持って臨める環境を整えておくようにしましょう。

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【階層別】一般従業員向けハラスメント研修のポイント

全ての従業員を対象とするハラスメント研修も、中小企業において非常に重要です。特に新入社員や若手社員は、立場が弱く被害者になりやすい一方で、社会人経験が浅いため上司の正当な指導を過剰にハラスメントだと感じてしまう恐れもあります。そのため、入社研修等に組み込んでおくことで、早いうちに正しい知識と対処法を身につけさせることが重要です。

一般社員向け研修の内容としては、まずハラスメントの基本知識を網羅することが重要です。具体的には以下のポイントを押さえるようにしましょう。

  • ハラスメントの種類と定義: パワーハラスメントやセクシュアルハラスメント、マタニティハラスメントなど代表的なハラスメントの種類とその定義・具体例を説明します。職場で起こり得る様々なハラスメントを知ることで、自社で何が問題行為となり得るかを理解してもらいます。
  • 会社の方針と就業規則の確認: 自社の就業規則にハラスメント禁止規定や懲戒規定が明記されている場合は研修で改めて紹介します。「当社はハラスメント行為を許さない」「発覚時には厳正に対処する」という経営層の方針を周知徹底し、社員一人ひとりに当事者意識を持たせることがポイントです。
  • 具体的なケーススタディ: 日常業務で起こりうるグレーゾーンの事例を挙げ、「これはハラスメントに当たるか?」「どう対処すべきか?」を参加者で考えさせます。先輩社員が後輩を宴席で叱責したケースや、上司が部下に私的な用事を繰り返し頼むケースなど、身近な題材を用いてディスカッションを行います。
  • 相談窓口の周知と利用方法: 社内外に設置したハラスメント相談窓口やその連絡先を改めて全社員に伝え、「困ったときは一人で悩まず必ずここに相談を」というメッセージを伝えます。相談の流れや、プライバシーは守られること、相談後は会社が適切に対処すること等も説明するようにしましょう。
一緒に社内研修をうける社員

一般従業員向けのハラスメント研修は、年に1回程度の定期実施が望ましいと言われています。法改正や社会情勢の変化に応じて研修内容をアップデートし、常に最新の知識を共有しましょう。また、自社でハラスメント事案が発生してしまった場合には、再発防止策の一環として臨時の全社員研修を行うことも検討すべきです。被害事例を教訓として社内で共有することで、二度と同じ問題を起こさないという組織の決意を示す機会としても活用していきましょう。

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    ハラスメント相談窓口と対応フローの整備(研修との連動)

    ハラスメント相談窓口と社内対応フローは、研修と並んでハラスメント対策の両輪となるものです。研修でいくら知識を与えても、いざ問題が起きたときに適切に対処できなければ意味がありません。日頃から相談窓口と対応フローを整備し、研修を通じてそれらを社員に周知・訓練しておくことが重要です。

    ハラスメント相談窓口

    相談窓口は「設置して終わり」では、せっかく窓口を置いても問題が水面下で悪化し突然の訴訟リスクを生む可能性があります。そうならないよう、研修等を通じて「会社として真剣に対応するので安心して声を上げてほしい」ことを繰り返し伝えましょう。

    また、社内窓口担当者を決めた場合、その担当者に相談対応スキルの研修を受けさせておくことも大切です。中小企業においては、総務担当者や信頼できるベテラン社員が窓口を兼務する例もありますが、守秘義務や公正な対応方法について事前に教育しておく必要があります。

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    ハラスメント対応フロー

    ハラスメント対応フローについては、こちらも事前に具体的な手順を定めておき、研修で関係者に共有することが肝要です。対応フローとは、ハラスメントの相談があってから問題解決・再発防止に至る一連のプロセスを指します。自社の規模や体制に合わせた手順書(マニュアル)を作成しておきましょう。

    なお、この対応フローについては、平時から管理職や関係者に研修でシミュレーションさせておくと良いでしょう。特に中小企業においては、誰がどの役割を担うかが曖昧になりやすいため、具体的な手順を決めて共有しておくことが重要です。

    まとめ:ハラスメント研修と社内体制整備で職場の安心・安全を実現

    ハラスメント研修は法律対応という側面だけでなく、社員一人ひとりの意識改革と行動変容を促し、働きやすい職場づくりにつなげる重要な機会です。研修を通じて得た知識や気づきが日常のコミュニケーション改善に生かされれば、生産性向上や人材定着といったメリットにも直結します。

    中小企業の場合、限られた人員の中で研修計画や相談窓口運営を進めるのは容易ではないかもしれません。しかし、本記事で紹介したポイントを参考に、自社の実情に合った形で一歩ずつ取り組んでみてください。もし「何から手を付ければいいか分からない」「就業規則の整備や研修内容に不安がある」という場合には、お気軽に吉野モア法律事務所までご相談ください。

    ※1: 厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産等、育児・介護休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント)」