ハラスメントの境界線はどこ?専門弁護士が教える具体事例と企業の対策

ハラスメントと指導の境界線はどこ?

今回は、職場の健全な環境を脅かす「ハラスメント」について、その具体的な事例と、企業が取るべき対策に焦点を当てて解説します。

「これくらいなら大丈夫だろうか?」「指導とパワハラの線引きがわからない」といった疑問は、多くの企業や従業員の方が抱えています。ハラスメントは、行為者の意図とは関係なく、受け手が不快に感じたり、就業環境が害されたりした場合に成立する可能性があります。本記事では、具体的な事例を通じてハラスメントとみなされる境界線を明確にし、万が一の事態に備えて企業が整備すべき体制について、弁護士の視点からわかりやすくご説明します。

記事監修

吉野モア法律事務所 代表

弁護士:吉野誉文

京都大学法科大学院卒業 大阪弁護士会所属。
2022年に吉野モア法律事務所を開所し、コンプライアンス問題や外国人労働者等の労災・労務問題、事業リスク・事業開発に伴う法的アドバイス等を実施。
直近は「トラブルが起こる前に備える」企業法務を目指し、組織づくりや次世代経営者育成なども手掛けている。

ハラスメントの基本と見過ごされがちな行為

ハラスメントとは、一般的に、優越的な関係を背景とした言動や、性的な言動などにより、相手に精神的・身体的な苦痛を与えたり、職場の環境を悪化させたりする行為を指します。特に問題となりやすいパワーハラスメント(パワハラ)とセクシャルハラスメント(セクハラ)について、具体的な判断基準の イメージを掴みましょう。

パワーハラスメントの具体的な行為

パワハラは、業務の適正な範囲を超えた言動が、労働者の就業環境を害することです。以下の様な行為はパワハラと判断されかねません。

  • 過大な要求: 到底達成不可能な業務量を押し付けたり、目的もなく長時間にわたり指導と称して執拗に叱責し続ける行為。
  • 過小な要求・無視: 嫌がらせのために、能力に見合わない単純作業のみを命じたり、チーム全体で特定の従業員を業務から意図的に外し、挨拶や報告を無視したりする行為。
  • プライバシーの侵害: 業務と関係のない個人的な事柄について執拗に問い詰めたり、連絡先を本人の許可なく他の社員に漏らしたりする行為。

セクシャルハラスメントの具体的な行為

セクハラは、職場における性的な言動により、相手の意に反して不快にさせる行為や、それにより解雇や降格などの不利益を与える行為です。親しみを込めた言動のつもりでも、相手が不快に感じればセクハラとなります。

  • 外見・身体的特徴に関する不必要な言及: 「太ったね」「その服は派手すぎる」など、業務に無関係な外見や服装について執拗に言及する行為。
  • 性的な話題の強要: 昼食時などに、性的な冗談や過去の恋愛遍歴などを一方的に話し、参加を促したり、聞きたくない相手に無理やり聞かせたりする行為。
  • 不必要な身体接触: 励ます意図であっても、肩や背中などに不用意に触れる行為は、相手にとって不快感を与え、セクハラに該当する場合があります。

「指導」と「ハラスメント」の線引きは?ハラスメント事例

ハラスメントを巡るトラブルの中には、「指導」と「権利侵害」の線引きが曖昧なことで生じるものも多くあります。以下の具体的なハラスメント事例を通じて、その境界線をイメージしてください。

事例1:チームミーティングでの厳しい指摘

上司からの叱責を受ける女性社員

【ケース】

課長Aは、締切を大幅に過ぎた報告書を出した部下Bに対し、他のメンバーがいる前で「こんな低レベルな仕事をするなら、辞めてもらった方がマシだ」と強い口調で発言した。

【判断のポイント】

  • 指導の範囲内: 報告書の遅れや質について、改善点と根拠を明確にして叱責し、改善を促すこと。
  • ハラスメントの可能性が高い: 他の社員がいる前で、人格を否定するような言葉を選び、過度に攻撃的な方法で叱責することは、業務上の必要性を逸脱しており、パワハラと判断される可能性が極めて高いです。

事例2:社員旅行での飲酒の強要

【ケース】

業務時間外の社員旅行で、部長Cが「飲めないなんて、会社の付き合いが悪い証拠だ」と発言し、飲酒を断る部下Dに繰り返しアルコールを注ぎ続けた。

【判断のポイント】

  • 業務外の行為でも成立: ハラスメントは職場の延長線上の行為であれば、業務時間外や私的なイベントでも成立します。
  • ハラスメントの可能性が高い: 飲酒は個人の自由であり、それを拒否する意思を無視して心理的な圧力をかけ、強要する行為は、アルコールハラスメント(アルハラ)やパワハラに該当します。

事例3:育児休業取得者への業務配分

【ケース】

育児休業から復帰した社員Eに対し、上司Fが「子育てで忙しいだろうから」と、Eの承諾なく専門外で明らかに簡単な補助的な業務だけを一方的に割り当て、昇進・昇給の対象から外した。

【判断のポイント】

  • 配慮と不利益取扱いの違い: 育児中の社員への配慮は必要ですが、その社員の能力やキャリア形成の機会を奪う形で業務を制限し、不利益な取り扱いをすることは許されません。
  • ハラスメントの可能性が高い: この行為は、育児休業などを理由とするマタニティハラスメント(マタハラ)に該当します。本人の意向や能力を無視した業務配分は、働く環境を害する行為とみなされます。

ハラスメントを防ぐために企業が取るべき対策

就業規則やハラスメント防止規定の整備

ハラスメント行為が懲戒処分の対象となることを就業規則に明記し、全従業員に対し、ハラスメントの定義や判断基準、罰則について教育研修を定期的に実施する必要があります。ルールが明確になることで、従業員一人ひとりの意識が変わり、ハラスメントの抑止力になります。

相談窓口の設置と周知徹底

ハラスメント防止対策で欠かせないのが、従業員が安心して相談できる環境を整備することです。相談窓口を設置する際は、以下の点に注意が必要です。

  • 複数の相談ルート: 社内だけでなく、社外の弁護士や専門機関など、複数の窓口を設け、相談者が窓口を選べるようにします。
  • 秘密の厳守と不利益な取り扱いの禁止: 相談者のプライバシーを厳守し、相談したことで不利益な取り扱いを受けないことを明確にルール化し、全従業員に周知徹底することが重要です。

※相談窓口の設置方法については、こちらの記事(機能するハラスメント相談窓口の作り方 ― 中小企業に必要なハラスメント対応)もご覧ください。

事実確認と迅速な事後対応フロー

ハラスメントの相談があった場合、迅速かつ公正に対応するためのフローを確立しなければなりません。具体的には、以下のようなフローで対応を進めます。

  1. 事実関係の聴取: 相談者、行為者、目撃者などから、客観的な事実関係を慎重かつ中立的に聴取します。
  2. プライバシーの保護: 聴取の過程で知り得た個人情報や秘密は、当事者の了解なしにみだりに第三者に漏らしてはなりません。
  3. 措置の決定と実施: 事実認定に基づき、行為者への懲戒処分や配置転換、被害者へのケアなど、適切な措置を速やかに実施します。

※ハラスメント発生後の対応については、こちらの記事(ハラスメント調査委員会の設置・運営マニュアル|公正な事実調査の進め方)もご覧下さい。

ハラスメント発生後の迅速な調査と事後対応

まとめ:ハラスメントの境界線を守り、適切な対策を

ハラスメントは、個人の問題ではなく、企業文化と組織体制の問題です。本記事でご紹介したように、指導とハラスメントの境界線は曖昧になりやすく、行為者の意図ではなく「受け手がどう感じたか」「就業環境が害されたか」が判断の大きな基準となります。

ハラスメント防止のためには、単に罰則を設けるだけでなく、相談窓口やその後のフロー整備、そして何よりも「これは許されない」という共通認識とルール作りが不可欠です。不安な点やご不明な点がある場合は、個別の状況に応じて最適な法的アドバイスが異なるため、お早めに専門家である弁護士にご相談ください。

吉野モア法律事務所では、規定の作成から危機管理、紛争対応まで、企業のハラスメント対策を全面的にサポートいたします。お困りの際はお気軽にご相談ください。