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「初めて外国人を雇用する予定だが、何から始めたらいいかわからない」—こういったご相談を頂くケースが多くあります。制度上のポイントはもちろん重要ですが、実際の現場では思っていた箇所以外にも、戸惑うポイントや文化の違いによる難しさがあります。
本記事では、外国人雇用における基本的な法的ルールに加え、日本人雇用との違い、そしてトラブルを未然に防ぐための実践的なポイントまで解説します。
吉野モア法律事務所 代表
京都大学法科大学院卒業 大阪弁護士会所属。
2022年に吉野モア法律事務所を開所し、コンプライアンス問題や外国人労働者等の労災・労務問題、事業リスク・事業開発に伴う法的アドバイス等を実施。
直近は「トラブルが起こる前に備える」企業法務を目指し、組織づくりや次世代経営者育成なども手掛けている。
少子高齢化と共に日本の生産年齢人口は年々減少しています。そして、今後さらに人材獲得競争が激化し、人手不足が深刻化することが予想されています。厚生労働省(※1)によると、すでに日本で働く外国人労働者数は2024年10月時点で2,302,587人にも上り、過去最多人数になっています。外国人材の雇用は、持続可能な企業活動のための重要な選択肢となりつつあります。
日本の労働力人口が減少の一途をたどる中、外国人材は国内の人手不足を補うだけでなく、企業の多様性を高め、新たな視点や技術をもたらす可能性を秘めています。しかし、その雇用には日本人雇用とは異なる法的知識と体制整備が不可欠です。
外国人雇用を成功させるためには、まず基本的な法的理解が重要です。特に以下の3つのポイントは、採用前に必ず確認してください。
外国人が日本で合法的に働くためには、必ず「在留資格」が必要です。これは日本人雇用にはない、外国人雇用に特有の最も重要なポイントです。
この、在留資格と業務範囲に相違があった場合、不法就労とみなされて罰せられる可能性があります。不法就労であることを知らなかった場合でも、過失がある場合は犯罪となり、拘禁刑が課される可能性がある他、今後5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金に厳罰化されることが決定しています。そのため、外国人の採用では、「在留資格」と「実際に任せる業務内容」が合致しているかどうかが極めて重要です。
▼不法就労とは?
不法就労にもいくつかパターンがあります。
▼在留カードの確認が必須
不法就労を防ぐためにも、在留カードを確認していくことが大切です。特に確認するポイントは以下3点です。
外国人雇用を始める前に確認すべき2つ目の法的ポイントとして、雇用契約を結ぶ際には、日本人雇用以上に具体的な労働条件を明示し、書面で交わすことが重要です。
▼明示すべき具体的な労働条件:
なお、雇用契約に、万が一在留資格が取得できなかった場合の対応について明記しておくことも重要です。
▼多言語対応の重要性
外国人材の出身国の文化慣習や、日本で働く動機を理解し、日本の文化慣習を伝える努力が必要です。具体的には、雇用条件や仕事内容が分かるように、多言語対応の書面や図解を用意することが推奨されます。日本人には「なんとなくわかる」ルールも、外国人にとっては明確な言語化が必要であるということを、忘れないようにしましょう。
▼日本人と異なる労働条件は原則禁止
国籍を理由に、労働条件や待遇に違いを設けることは労働基準法で以下の通り禁じられています。
(均等待遇)
第三条 使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。
(引用元:労働基準法 e-Gov法令検索)
ただし、外国人の文化や宗教等に配慮するために、合理的な範囲内で日本人と異なる取り扱いをすることは問題ありません。
外国人雇用を始める前に確認すべき3つ目の法的ポイントとして、「社内体制の整備・見直し」が挙げられます。これには、在留カードの適切な管理と、労務管理体制の整備、特に休みの管理や国ごとの長期休暇に対する意識の違いへの対応が含まれます。
具体的には、以下の点に留意して社内体制を整えることが重要です。
▼在留カードの適切な管理と確認
前述の通り、外国人人材が不法就労でないことを知らなかった場合でも、不法就労助長罪に問われる可能性があります。従って、採用する際に「在留資格」と「実際に任せる業務内容」が合致しているかを確認することはもちろん、採用後も定期的に有効期限が切れていないかの確認を行ったり、必要に応じて更新の手続きができるようにしたりと、適切に管理できる運用を整備しておくことも重要です。
▼労務管理体制の整備
日本人社員のみでは問題にならなかったことも、外国人材との認識の齟齬などからトラブルに発展する可能性もあります。特に休暇の認識については、日本人が当たり前だと思っていることも、彼らにとっては全く違う認識であることも考えられます。改めて、休暇を含むルールの明確化や、社内での認識・浸透を行っておくことが求められます。
※基本的な就業規則を見直すべきポイントについては、こちらの記事(就業規則、形骸化していませんか?服務規律・解雇ルールの見直しポイント)もご覧ください。
外国人雇用においては、文化や習慣の違いからくる「コミュニケーション不全」が労務トラブルの背景にあることが多く、これを解消するための取り組みが不可欠です。
コミュニケーションによるトラブルを防ぐために、気を付けるべきポイントをご紹介します。
▼日本語能力への配慮
マネージャーとして日本語能力を期待して雇用したものの、期待に応えていない場合でも、すぐに解雇できるわけではありません。解雇には「客観的に合理的な理由」が必要であり、能力向上や改善の見込みがないこと、長期的な改善・教育の実施、解雇回避措置の尽力などが求められます。
▼安全教育と言語の壁
厚生労働省のデータ(※2)によると、外国人労働者の労働災害による死傷者数は2023年時点で5,672人となっています。労災事故の背景には、日本語が苦手で会社に馴染めていない状況や、安全な作業方法が十分に伝わっていないケースがあります。名古屋地方裁判所の事例では、日本語をほとんど理解できない研修生への安全教育は、中国語での書面交付や説明、内容理解の確認がなければ不十分であるとされました。
▼ハラスメント対策
コミュニケーション不全はハラスメントにつながる可能性もあります。指示指導においては、「どうして欲しいか」「変えて欲しい行動」「なぜ変える必要があるか」を明確に伝えることが重要です。また、ハラスメント防止のための教育を実施し、相談窓口を設置するなど、ハラスメントがない職場環境作りに努める必要があります。
2024年に成立した入管法改正により、技能実習制度に代わる「育成就労制度」が創設される予定です(※3)。これにより、従来の転職制限が緩和され、人材の流動化が進むことが予想されており、今後は外国人材獲得競争が激化する可能性もあると言われています。
そのため、企業は単に外国人人材を受け入れるだけでなく、彼らが日本で長期的に働く上でのキャリア形成を支援し、選ばれる勤務先となるための努力がより一層求められます。
▼「安価な労働力」という考え方のリスク
前述の流れもあり、外国人材を「安価な労働力」とだけ捉えることは、採用の失敗に繋がる可能性が高くなってきています。とある企業では、人件費節約のために外国人新卒を多数採用した結果、外国人材の質が低下し、1年以上勤務を継続する社員が誰もいないという状況に陥りました。これは、報酬や職場環境が不適切であったことで、外国人コミュニティの中で「ブラック企業」として知れ渡ってしまったことが原因と考えられます。
▼「成長欲求」への対応とキャリアパスの提示
外国人材の定着には、
という人間の欲求を理解することが大切です。
特に、企業は将来像やキャリアアップの具体的な像を作り、従業員に提示することが求められます。
一概には言えませんが、外国人材の多くは、キャリアアップや昇給に高い関心を持っており、日本企業の職務に対する評価システムに対しては、不明瞭で昇進が遅いと感じる傾向があります。そのため、いつ、何回給料が上がるのか、といった昇給・人事評価について事前に説明することや、等級に対して求められるスキルを明確にしておくことも効果的です。
▼相談できる体制の整備
外国人雇用におけるトラブルの多くは、「制度や文化の理解不足」「契約書の曖昧さ」「誤解による認識ギャップ」コミュニケーション不全が原因で発生します。そのため、日常的に上司や先輩に相談したり、サポートを受けられる環境を整えることも重要です。
外国人雇用は、日本社会の未来を支える重要な要素であり、企業成長の鍵となります。本記事でご紹介したように、まずは基本的な法的理解の確認と明確な労働条件の明示と多言語対応を行った上で、コミュニケーション不全の解消や将来を見据えたキャリアパスの提示まで進めていけることが理想的です。安易に「安価な労働力」と捉えず、長期的な視点と相互理解に基づいた人材戦略を構築することで、持続可能な組織づくりを目指していきましょう。
※1 参照元「厚生労働省 「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和6年10月末時点)」
※2 参照元「厚生労働省 令和5年外国人労働者の労働災害発生状況」
※3 参照元「日本経済新聞「育成就労で外国人材確保 改正法成立、技能実習に代わり」2024年6月14日」
なお、外国人雇用をこれから始めるという方に向けて、現場で起こりがちな“文化のズレ”や伝わらない指示を防ぐための実践ポイントを、教育と法務の両面から解説するセミナーを開催します。是非ご参加ください。
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