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建設業界において、元請から下請、そして孫請へと連なる「多重下請け構造」は、専門技能の活用や機動的な施工体制の構築に寄与してきました。しかし、その一方で、この構造は法的なコンプライアンスリスクが最も集中しやすい箇所でもあります。
昨今、建設業界を巡る法令遵守の要請は厳しさを増しています。ひとたび法違反が発覚すれば、営業停止や許可取消といった行政処分が科されるだけでなく、近年のESG経営やサプライチェーン管理の観点から、企業の社会的信用を根底から揺るがしかねません。本記事では、建設業のコンプライアンス対策について、経営層・法務担当者が特に留意すべき法的ポイントと、実務における具体的な対策を深掘りして解説します。
💡この記事のまとめ
建設業者は、施工責任を曖昧にする「一括下請負(丸投げ)」を原則禁止されており、元請人が主体的に施工に関与する「実質的関与」が必須となります。
建設業法第22条は、「一括下請負」を原則として禁止しています。これは、施工責任の所在を曖昧にし、中間搾取による手抜き工事や、安全管理・品質管理の欠如を招く恐れがあるためです。
元請人が一括下請負の禁止を免れるためには、単に現場に技術者を配置するだけでは不十分であり、主体的に施工に関与する「実質的関与」が不可欠です。国土交通省のガイドライン※1では、元請人は下請人に対して以下の全ての事項を行うことが求められています。
上記のような関与が認められない場合、形式的には一括下請負に該当しない下請契約を結んでいても「一括下請負」とみなされます。一括下請負の禁止規定に違反した場合、原則として15日以上の営業停止処分がなされます。また、公共工事においては、一括下請負の発覚は指名停止措置を招き、経営に致命的な打撃を与えます。
【実践チェックポイント】

下請業者が登場する取引においては、建設業法だけでなく、下請法の適用対象になっていないかについても確認が必要です(なお、下請法は2026年1月1日から「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(取適法)」に名称も変更されます)。
※下請法の改正についてはこちらの記事(下請法改正(取適法)で企業に求められる対応を弁護士が解説)もご覧ください。
建設工事そのものは建設業法の規定が優先され下請法は適用されませんが、例えば設計業者に設計図等の作成を委託する場合や、建設資材を販売している建設業者が建設資材の製造を他の事業者に委託する場合、下請法が適用されます。下請法の適用がある場合、委託事業者には以下の義務が課されます。
2026年1月に施行予定の「中小受託取引適正化法」は、これまで下請法の適用対象外となっていた中小事業者間の取引を適正化することを目的としています。特に、適用基準に従業員基準が追加されたことに伴い、これまで資本金要件を満たさず適用対象外であった取引についても、委託事業者及び中小受託事業者の従業員数によっては新たに適用対象となる点に注意が必要です。
【実践チェックポイント】

建設業法第19条では、契約締結に際して「工事内容」「請け負い代金の額」「工期」など14項目の重要事項を記載した書面の交付を義務付けています。口頭による発注や「工事着手後の契約」は、建設業法違反となります。
また、現場で頻発する追加工事についても、事前に変更内容を反映した書面(追加変更契約書等)を交わす必要があります。これを怠ると、代金支払いの紛争原因となるだけでなく、行政処分の対象にもなり得ます。追加・変更工事についても、着手前に書面での合意がなされているかについて確認することが重要です。
さらに、契約締結に際して書面を取り交わしておくことは、上記のように建設業法が要請しているというだけではなく、工事の内容や工期、請負代金の金額など、自社が請け負いまたは委託している建設工事の契約管理という点でも極めて大切です。後日工事内容について争いになった際、契約書が存在しなかったために自社が想定していた請負代金の請求が認められなかったりなど、自社に不利な結果となってしまった例は無数にあります。

第3章で説明した契約管理も極めて重要ですが、書類の管理だけでなく現場で下請業者の安全をどう守るかという点も、元請人の法的責任を左右します。
労働安全衛生法において、建設業の元請人は「特定元方事業者」として、以下の義務を負います。
三菱重工造船所事件(最高裁平成3年4月11日判決)によれば、元請人は直接の雇用関係がない下請人の労働者に対しても、作業場所や設備を提供し、指揮監督を行っていたことなどを理由に「安全配慮義務」を負うとされました。
事故により下請事業者の従業員が負傷した場合に、元請業者が「下請業者の管理ミスだ」と主張しても、元請業者が現場の危険性を予見できた、あるいは是正できた立場にあるならば、多額の損害賠償責任を負う可能性があります。
【実践チェックポイント】
建設業界の多重下請け構造におけるコンプライアンスは、現場の品質を向上させ、事故を防ぐことに直結します。また、下請法や2026年施行の取適法を遵守し、適正な価格で発注することは、優秀な協力会社を確保し、中長期的な施工能力を維持するための「攻め」の戦略でもあります。
「これまでこのやり方で問題なかった」という経験則は、もはや通用しない時代です。経営層は、現場の負担を考慮しつつも、法令遵守を経営の最優先事項として旗振りを行う必要があります。
法的な判断は、各現場の具体的な状況により異なります。少しでも不安な点や、契約書の適正化、内部監査体制の構築が必要な場合は、建設業の実務に精通した弁護士へ早めにご相談いただくことが、予期せぬトラブルを未然に防ぐ最善の策となります。ご不安な点がございましたら、当事務所までお早めにご相談ください。
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吉野モア法律事務所 代表
京都大学法科大学院卒業 大阪弁護士会所属。
2022年に吉野モア法律事務所を開所し、主に中小企業のコンプライアンス問題や外国人労働者等の労災・労務問題、事業リスク・事業開発に伴う法的アドバイス等を実施。
直近は「トラブルが起こる前に備える」企業法務を目指し、組織づくりや次世代経営者育成なども手掛けている。
Q1. 発注者の承諾があれば、一括下請負(丸投げ)をしても良いですか?
A. 建設業法上、民間工事で発注者の書面による承諾がある場合を除き、原則禁止です。ただし、公共工事においては、発注者の承諾があっても一括下請負は一切禁止されています。
Q2. 「協力金」の名目で下請代金を差し引くことは問題ありますか?
A. 合理的な根拠なく一律に差し引くことは、下請法(取適法)の「下請代金の減額禁止」に抵触する可能性が高いです。2026年の法改正後は特に厳格なチェックが求められます。
Q3. 事故が起きた際、「下請業者の管理ミスだ」として責任を免れることはできますか?
A. できません。元請人が現場の危険性を予見・是正できる立場にある場合、特定元方事業者としての法的義務および安全配慮義務違反を問われ、損害賠償責任を負うリスクがあります。
※法的な判断は現場の状況により異なります。 具体的な事案については、弁護士へお早めにご相談ください。
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